Moonlight scenery

     The ancient mystery?”
 


     2



 さて。翡翠宮の隋臣幹部たちによる“ランチ・ミーティング”が、いつものお約束っぽいオチつきで“お開き”となり。緑頭の王子専属護衛官殿は、相変わらずのお気楽な締めくくりようへ そりゃあ判りやすい仏頂面になったまま、書類を抱えてデスクワークへ向かった隋臣長や佑筆殿と別れ、ウソップと共に彼の仕事場までを同行する。

 「ゾーロ、そんなしょっぱそうな顔してんなよな。」
 「悪いか。おりゃ護衛官なんだ、へらへら笑ってばかりおれんのだよ。」
 「けど、ルフィは違うだろうがよ。
  これからバカンスの季節なんだ、公式の場に出る機会も増えんのに、
  そんなおっかねぇ顔してんのが後ろにいちゃあ、皆してドン引きだぞ?」

 欧州のバカンスシーズンはとうに始まっており、ここR王国も、それが外貨獲得の主柱ということになっている“観光事業”の書き入れどきを迎え、街やビーチには外国からのお客様がじわりじわりと増えつつある頃合い。実をいや、砂漠の近隣という国には珍しくも農業もしっかと営まれている国でもあり、そういった“お客様”に頼らずとも自給自足が可能なのだが。他国からの人々を迎え入れることには、収益云々という経済的な次元だけの話じゃあない、別の目的もあるようで。例えば、スイスのように他国家間にて交わされた条約があってのそれじゃあないが、それでも…暗黙の了解とやらで、どこの国からも認められている“永世中立国”だったりする不思議な王国。武装してません、国力も微細なものです、どことも争うつもりなんてありません、どことも其処とだけという条約は結んでおりませんという、オープンな姿勢を見せることで成り立っている“中立”なのであり、そんな背景を持つ国だからこそという順番で、他所との対立も内紛もない治安のよさから、観光客も安心して骨休めにやって来る次第。

 “けど、そんなの大嘘だのによ。”

 まぁねぇ。
(苦笑) 公言されてはない 実のところ、この国はとんでもない地下資産を保有しているし、情報戦でも他所の列強を組み敷くほどのあれやこれやを押さえておいで。過去の陰謀、現在進行中の様々な国家計画。どこの企業がスポンサーになっているのか、それによって組まれている“相身互い”な贔屓・優遇の度合いはいかほどか。そうしてそして、様々なホットラインへ割り込める奇跡のシステムも保持しているという、今時ならではな恐ろしい隠し球を持つ国であり。出入国が簡易だと思わせといて、其処へもみっちりとした監視システムが張り巡らされているため、要人や危険人物がお忍びでなんてな入国も、実はきっちりと見張られているのだ。場合によっちゃあ、国王や皇太子が威風堂々立ち会って、騒ぎを起こしませんとの念書を書かせるので、そちらの方もさして案じることはないらしく。

 “……俺を引っこ抜いたのはどういう気まぐれだったやら。”

 いやいや、護りはどんだけあったって足りないことはないってほど、豪気だけれど危険でもある王族の皆さんだってことでしょよ。現に、まだ幼かったルフィ王子へ譲られもしたんでしょうが。良からぬ輩が逆恨みして来かねない背景を持つエース殿下だったのでと、腕自慢を集めていた時期、愛する弟の警護も重々固めといた方が…と感じたからに違いなく。

 「………。」

 話が随分と外れたが、よって、観光はそのまま外交方面への対応にも通じるということで、それがこの国の主たる資金源ででもあるかの如く…ある意味 立派なカモフラージュとして、丁寧、且つ良心的にという方針が常に心掛けられてもいるというワケであり。勿論のこと、王家王族の関係者だとてその方針下にあることへは例外ではなく。国王や皇太子のみに留まらず、分家にあたる“宮家”や、民間人との婚礼により降嫁した元王女の係累にあたる、華族の一種“卿”を名乗る人々に至るまで。正式な外交大使や親善大使ではなくとも、それ相応の活動を義務づけられているほどだとか。そんな中でも、第二王子のルフィ殿下は、この王宮の“お陽様”とまで呼ばれている人気っぷりで。もっとずっと幼いころから、交流行事には欠かさずの引き合いがあった身であり。幼かった当時のそれは、さすがにお飾りや“お花”扱いだったかも知れないが、成人の儀式を終えた今では、正式な国使としての仕事にも奔走するし、その発言も重く扱われ、この国の将来を背負う頼もしい存在と……

 「思われてる奴が、何しとんじゃ、ありゃ。」
 「…うあ。」

 車輛部の格納庫が、これで全部ではないがそれでも数棟居並んでいた区画が、まだそこへと至ってないのに見通せる、そんな距離にまで到達していたゾロとウソップの二人連れ。陽射しや空の青さは、夏本番を迎えた色合いへ極まろうと仕掛かってもいるが、潮風と多数植えられた樹木の恩恵もあって、王宮内は涼しい風の巡る過ごしやすさであり。そんな風に冷や汗が凍りつきかかったような気がしたウソップだったのは、

 「くぉら、フランキーっ! お前、メリーに何てことしてやがるっ!」
 「あ・おい、ウソップ…。」

 調整した車輛の試運転もこなせるようにと、シャッターが降ろせる格納庫前には小さめのロータリー、広場が設けられてあるのだが。そこでルフィが楽しげにまたがっていたのは、彼や隋臣の皆様が可愛がっている、あの大きなムク犬のメリーだったのだけれども。気のせいでなければ、ふさふさの毛で覆われた首の辺りから、翼のような金棒が後方へと向けて伸びており。大きなワンコの体に見合った長さやゴツさをしたその棒は、どう見ても…乗り物の前輪についている“ハンドル”にしか見えなくて。ルフィが“操作”しやすいようにとだけを考えて、そんな可哀想なもんをメリーへくくりつけやがったのか、てめぇはよと。文句とそれから、かなわぬまでも一発殴ったるという勢い、何か言いかけ、恐らくは制しかけたゾロを置き去りにし、だかだかだかと駆けていったのだけれども。

 「おお、ウソップっ。凄げぇだろ、これ。フランキーが……。」
 「お前もお前だ、ルフィっ! メリーに何くくりつけさしてやが…。」

 勢い込んで怒鳴りかけたお声がひたりと止まる。怒り心頭とばかりに駆けて来たメカニックさんがみたものは、首輪付近へ金棒くくられたメリーじゃあなく、首の毛並みの中から金棒が生えていたメリーだったからであり。

 「なっ、きさまっ、ななな、なんってことしてやが…っっ!」
 「うそっぷ??」

 そちらを指差しもってわなわなと震え出す乳兄弟さんの様子へ、ますますキョトンとしたルフィへと目がけ、

 「るふぃ〜〜〜〜〜っっ!!! お前、メリーに何しやがったっっ!!!」
 「何って…?」
 「あうん?」
 「しらばっくれてんじゃねぃよっ!」

 メリーだって今、あうんって、その身から離れたところから鳴いてたじゃねぇかよ。あんな可愛がってた犬だったのに、面白くなりゃそんでいいのかよ、お前。ああ、判ったほかのワン子はちょっと黙ってな。つか、もう次のを飼ってやがったのか、手回しのいいこったよな。同じ大きさのみてぇだな。デカイ舌とかメリーと一緒で、………って、あれ?

 「あうんvv」
 「そいつは次のも何もメリー本人だぞ?」
 「え?」

 感極まっての勢い余って。石畳の上へ座り込むと、目元へ腕を差し渡し、ううっと泣き始めてしまったウソップの、頬をさっきからベロンベロンとなめていたワンコこそ。妙な改造されてやがるっとウソップを焦らせた、オールドイングリッシュ・シープドッグのメリーちゃんに他ならず。

 「え?    ……でも、じゃあ、そちらさんはどちらさんで?」

 小柄とはいえ、幼児とは言えぬだけの大きさがあるルフィがまたがったまんまのワンコは?と、キョトンとしたまま訊いたウソップへ、

 「そっちはメカメリーだよ。」

 横手の格納庫から、工具一式をまとめた道具箱を提げて出て来た御仁が説明をして差し上げる。

 「おお、フランキーッ。これ、凄げぇ操縦しやすいぞっvv」
 「当たり前だ。
  前後左右にしか動かねぇ仕様だ、工夫も何もあったもんじゃねぇんだよっ。」

 ほらあの、遊園地とかデパートの屋上なんかにある、クマとかパンダとか、動物を模したカートみたいな、子供用の乗り物があるじゃありませんか。
「…なんでメリーに似せてあんだよ、紛らわしい。」
「だよな。ゴルフ場のカートとか、三輪バイクとかって形にもしようがあったろうに。」
 そうしてあったら、少なくともウソップが早合点しての勘違いはしなかったよなと。余計なことまで付け足すゾロを、ぎんと睨んだ車輛部部長さんのウソップだったが、

 「そんな形でいいんだったら、何もわざわざ一から作らねぇでもいいだろが。」
 「ごもっとも…。」

 いくらでも性能がいいのが市販されてますものねぇ。さすがは本職の次元の話だからか、振り回されることもなくのスパッと理屈を言ってのけた、リーゼント頭の屈強精悍なお兄さんが言うには、
「この坊主が、メリーの乗り心地がいいからつい跨がっちまうなんて言うからよ。」
 メリーの方も方で、大好きなルフィ王子に構われるのは嬉しいか、ぎゅぎゅうと抱っこされるのの延長くらいに思うらしく、ひょいっと乗っけてあちこち駆け回ってもいるらしいのだが。とはいえ、そろそろ重量オーバーでもあろうしと、かねてから見かねてたらしいフランキー。そこでとこういうふざけた仕様の乗り物を作ったらしく、

 「ま、王宮内の庭遊び程度だったら、こんな子供だましので十分だろ。」

 あんまり性能を上げると、免許がなけりゃあ乗れない代物になっちまうからよと、そこまで考えてあったらしい至れり尽くせりなメリー型カートは、ウソップでなくとも見間違えかねないほど、そのシルエットがメリーのまんまという、ごくごく自然な体格やクッション、且つ 毛並みでもあって。隣に並んだメリーご本人も、クンクンと匂いを嗅いでは“???”と、かわいらしくも小首を傾げて見せるほど。そんな彼らを誇らしげに見やりつつ、制作者様がそのスペックを口にしたのだが、

 「これでも時速は80キロまで出せるし、
  水陸両用で補助エンジンを出せばちょっとくらい車体が浮いたりもして。」
 「……それのどこが、子供だましなんだ、おい。」

 まったくである。
(苦笑) ちなみに、動物にハンドルつけたなんて発想は、決して筆者がはまり駆けてる某戦国ものアニメのキャラ、奥州筆頭が乗り回してる馬の影響ではありません。選挙だなんだで“〜筆頭”って語句が出るたび、ドキドキしているおばさんではありますが…。


  「ほほぉ?」
  「あ、俺それ知ってるっ。
   アイパッチしたカッコいいお兄さんが、侍なのに英語しゃべんだぜ?」
  「………ほほぉ。」
  「しかも不思議なことには、ゾロと声がそっくりっ!」
  「………ほほぉ。///////」
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  *メリーと同じ犬種、
   オールド・イングリッシュ・シープドッグを洗って見れば…、
   という図をテレビで観ましたvv
   コリーやアフガンちゃんと同じようなお顔してるんですねぇ。
   体躯も随分とすらりとしていて、
   濡れ鼠の姿を観て、やややと驚いてしまいました。

  *やっと主人公が出ましたが、
   話がなかなか主筋へ辿り着きませぬ。
   なので、もちょっと続きます。(ううう…。)


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